あれから3年、これから3年ー

「……あった」
自分の受験番号を、合格発表の掲示板の中から見つけた。
うれしい……けど、我を忘れてキャーキャーやるほどでもない。
なんでだろ? 自己採点で落ちようがないっていう結論に達していたから?
……ううん、そうじゃない。
単純に、ひとりじゃ盛り上がりに欠けるから。
そうっ、盛り上がるなら、ひとりよりふたりに決まってるっ!
「陸斗っ! あんたはどうっ!?」
一緒に合格発表を見にきた、陸斗の肩を叩いた……つもりだったんだけど……
「あれっ?」
……知らない顔。しかも、泣いてる。
落ちたのか……見知らぬ人よ。
「うっ……うぅ……」
「……ほらほら、メソメソしない。泣いてなにかが変わるわけじゃないでしょ!」
「でもっ……でも……」
「気持ち切り替えて! まだ受験する学校あるんでしょ?」
「……は、い……あり、ます……」
「だったらほら、前向いて次ガンバレ! あたしも応援してあげっからさ」
「えっ?」
「……ガンバレ!! 次は絶対うまくいくよ!!」
「……は、はい……頑張ります……」
「うん、それじゃね」

手を振ると、見知らぬ人は涙を拭ってわずかに笑顔を作った。
ちょっとうれしくなる……って、なにやってんだあたし。
でも、ああいうのを見るとなんかほっとけなくなっちゃうんだよなぁ……
「っと!!」
そう、陸斗はどこいった?
あたりをぐるっと見回したけど……見当たらない。
……なんだか、イヤな予感がする。
けど、たとえそうだったとしても、陸斗は逃げたりしないと思うんだけどな……
「……ん?」
右斜め四十五度の方向に、それらしい背中発見!
さっきの失敗もあるので慎重に見極めて……よし、陸斗だ。
ホッとした後、遠目にその表情を確認する。
「……笑ってる」
と、いうことは、受かったってこと……?
でも、笑っているというよりはニヤけてる感じ……
なんていうか、合格の喜びとは違うニュアンスの笑顔っぽい。
……ま、それでも泣いてたり落ち込んでたりはしてないので、ダメだったわけじゃなさそうね。
もう一度ホッとしながら、あたしは陸斗に駆け寄っていく。
「おーい、陸斗ーっ!」
「んっ? あ、奉莉」
「ちょっと、なに勝手にいなくなってんの?」
「あぁゴメン、受験票が風に飛ばされちゃってさ」
「風で飛ばされたって……それで、受験票は見つかったの?」
「あ、うん。親切な女の子が拾ってくれたんだ」
「……なるほど」

「ん? なにが?」
「いや……そのだらしないニヤけ顔の理由」
「えっ? そ、そんなにニヤけてた?」
「デレデレ。その娘、そんなにかわいかったの?」
「あー……まぁ……わ、割と」
こういった話、陸斗は比較的素直に話す。
あたしに隠す必要がないと思っているからだ。
そう、ただの友達に、隠す理由はない。
「ふーん……で、あたしとどっちがかわいかった?」
「うーん、そうだなぁ……タイプが違うから一概には……」
「あ、逃げた」
「いや、ホントに偽らざる素直な感想だから」
「……ま、いいわ。今日は機嫌がいいからこれ以上追求しないであげる」
「ん? 機嫌がいい……ってことは……?」
「へへー、合格したぞっ!」
ニコっと笑って、ピースする。
「おめでとう、奉莉!」
「ありがと。それで、陸斗は?」
聞くまでもないのはわかってる。
でも、あえて聞いた……聞きたかった。
すると、陸斗は深々と頭を下げ――
「いままで三年……お世話になりました」
予想外の言葉を口にした。
だけど、陸斗の話はそこで終わらない。
「そして……これから三年、またお世話になります」
顔をあげた陸斗は、さわやかな笑顔であたしにピースを返した。
「……」

……うれしい。
やっぱり、ひとりよりふたりの方が断然うれしいっ!
なにより、これからまた三年、陸斗と仲良くやっていけるのがうれしいっ!!
あたしは爆発的な喜びに任せて、陸斗をぎゅっと抱きしめた。
「陸斗っ! 合格おめでとっ!!」


友達、親友、盟友ー

卒業式が、終わった。
今は、名残惜しむように証書を持った大半の卒業生が、学校の校庭にたむろしている。
もちろん、あたしも、そのひとり――
「……卒業式、終わったね」
「うん、終わった」
隣にいる陸斗と一緒に、晴れ渡った空を見上げる。
すがすがしい気持ち……そして、さみしい気持ち。
さすがのあたしも、ちょっとは感傷的な気分になる。
「う゛ぅ、うっ……奉莉ぃ……」
「うおっとぉ」
号泣しているクラスメイトの娘があたしに抱きついてきた。
「ぞづぎょぅ、おべでどー……ぐすっ」
「ん、おめでと」
「まづりどはぁ、別の学校になるけど、また一緒に……ぐすっ、あぞぼーね……うくっ……」
「もちろん。いつでも連絡ちょーだい。あたしからもするからさ」

ぎゅっとハグを返した後、その娘はあたしから離れて今度は別の娘に抱きついた。
そんな光景が、至る所で見られる。
「やっぱり奉莉は泣かないんだな」
「……あたしのこと、陸斗は冷たい奴って思ってる?」
「思ってないよ。涙の量と情の厚さは比例しないし」
「ん、さすがは陸斗、よくわかってる」
「おっ、自分なんかより、奉莉のことをよくわかってる人の登場だ」
「えっ?」
陸斗の言葉を受けて振り返ると、そこには――
「奉莉ちゃん……卒業おめでとう」
我が最強の幼なじみ、東雲皐月が微笑んでいた。
「ありがとうさっちん!」
今度はあたしの方からハグをする。
……うん、あたしの負けだ。
「……仕方がない。今日から二中最強美少女の称号は、さっちんに譲るわ」
「丁重に辞退させていただくわ、奉莉ちゃん」
「遠慮しなくていいのに」
「そもそも、どうしてそういう話に?」
「いやぁ、あっという間に逆転されたなぁって思ってね」
「奉莉ちゃん……あまり胸をこすりつけられると……困るわ」
「どうして? 感じちゃうから?」
「ええ、とても……」
「どのあたり……感じるの?」
「あのあたりから……三谷先輩の視線を……」
「んっ?」
さっちんをハグしたまま振り返ると、陸斗が赤面していた。

「うわー……陸斗なにその顔」
「い、いや……だって……」
「あたし単独でこういう冗談やってもさほど動揺しないのに、さっちんが絡むとすごい反応ね」
「そ、そりゃ、東雲は……この手の冗談に荷担しないタイプだと思ってたから、不意を突かれたというか……なんというか……」
「私は特別冗談に荷担したつもりはなかったのだけれど……誤解を招いたのであれば、三谷先輩に謝らねばなりませんね」
「ま、さっちんは謝罪より、陸斗を祝福してあげたらいいんじゃない?」
「祝福?」
「卒業したのはあたしだけじゃないのよ?」
「あ……そうでした」
あたしから離れたさっちんは、陸斗の正面に立ち、二代目二中最強美少女(襲名拒否中)の微笑みをたたえる。
「三谷先輩、卒業おめでとうございます」
「……ありがとう、東雲」
「奉莉ちゃんの無茶に付き合い続けた三年間、本当にお疲れ様でした」
「ちょっとさっちん、あたしの無茶ってどういうこと?」
「奉莉ちゃんは、三谷先輩に無茶を強いた自覚がないの?」
「な、ないってことはないけど、三年間ずーっとみたいな言い方はちょっとオーバーなんじゃない?」
「オーバーかしら? 三谷先輩はどう思います?」
「そうだね……いろいろあったけど、今は楽しい思い出だからどっちでもいいよ、あはは」
屈託のない笑みをこぼした陸斗。
あたしの数々の無茶振りを、楽しんでいたと言うように笑ってくれた。
そう……陸斗はこういう奴。

「奉莉ちゃんは、本当にいい友達と巡り会えたわね」
「まあね」
「ただ、ふたりを見ていると、友達という言葉より距離が近いように思えるのだけれど……」
「それって、あたしと陸斗が付き合っているとか言いたいの?」
「ううん、そうではないわ。そういうお付き合いをしているのであれば、奉莉ちゃんが私に隠すはずないもの」
「そりゃそうね」
「でも、そうじゃない方向で友達より距離が近いとなると……親友?」
そう言いながらあまりしっくりいかないみたいで、陸斗は首をひねっている。
そんな陸斗の気持ちがあたしもよくわかる。
「親友って感じじゃないんだよね、あたしと陸斗って。たしかに友達よりは近いと思うんだけど……」
「だったら、そうね……盟友、というのはどうかしら?」
「っ!」
さっちんの言葉にピンときた。
それは陸斗も同じだったみたい。
「盟友か、いいねそれ」
「うん、すごいしっくりくる。あたしと陸斗は、盟友……たしかにいい!」
「喜んでもらえたようで、私もうれしいわ」
「じゃあ、盟友の陸斗。これからまた三年、よろしく」
「こちらこそよろしく、盟友の奉莉」
どちらからともなく手を差し出し、あたしと陸斗はがっちりと握手する。

盟友の絆を、確かめ合うように――