再会、でも一方通行ー

痛い。
とても痛い。
はじめて付けたコンタクトがとっても痛い。
今日から新しい人生のはじまり……なんて気合いを入れてみたけど……
「ぅっ……」
痛いものは痛い。
電車が走り出してからはさらに痛い。
せっかく朝岡学園に合格したのに、笑顔のひとつも作れない。
もうコンタクトははずして、メガネに……
「っ!?」
向かいの空席に人が来て、コツンと膝があたった。
瞬間、ちらっと視線が合う。
同い年くらいの、男の人……
隣は、やっぱり同い年くらいの女の子。
たぶん、私と同じく朝岡の合格発表を見に来た人たち。
ふたりの表情は明るい感じ。きっと合格したんだろう。
ということは、春からクラスメイトになる可能性も……
「…………」
やっぱり、メガネはやめておいた方がいいかも。
でも、そうなると、目は痛いまま。
さっきより、痛みが増してきている感じ。
「ぁ……」
涙……出てきたかも。
ううん、『かも』じゃなくて、出てる。

慌てて手で拭うけど、どんどんあふれ出してきて……
「っ!」
電車が揺れて、向かいの人とまた膝がぶつかった。
反射的に合う目と目。
すごく驚いてる……って、当たり前。
目の前で知らない人に泣かれたら、誰だって驚くに決まってる。
でも、違うんです、別にあなたのせいで泣いてるわけじゃ……
「ぅ……すん……」
 ダメ、言葉が出てこない。
向かいの人だって困ってる、ちゃんと説明しないと。
コンタクトが痛くて泣いてるだけですって!
よ、よし……言うわよ……
「ね、さっきのメール、こんな感じで返そうと思うんだけどいいかな?」
瞬間、斜め向かいの女の子に遮られた。
勇気を出して話しかけようとしたのに……
「……?」
女の子の携帯を覗いている男の子の横顔を見て、ふと思う。
私、この人見たことある……?
気のせい……いや、でも……
「ん……いいと思うよ」
「ありがと、陸斗」
メールを確認した男の子にお礼を言った女の子。
その言葉の最後に出た名前……『陸斗』。
そして、男の子と再び目が合った瞬間――
「あっ!!」
色あせた記憶が鮮やかによみがえる。
間違いない、この人、三谷陸斗くんだ!

「え、ええと……?」
ど、どうしよ、へんな声出しちゃったから、三谷くんが驚いてる。
えーと……その……えーと……
「ご、ごめんなさい……ぅ……」
あ、謝ってどうするの私?
しかも涙をポロポロこぼして!
ほら、三谷くん困ってるし、隣の女の子も驚いてるし……
どうしよう、どうしよう……
「…………」
ダメ、また言葉が出なくなって……代わりに出てくるのは涙で……
なんだか、ホントに泣けてきちゃった……
「っ……うっ……くっ……」
どうして私、こんななの?
変わるんじゃなかったの?
でも、やっぱり何も言えなくなって、情けなくて……
『まもなく、福留、福留です、出口は右側です……』
電車のアナウンスと一緒に向かいのふたりが動き出した。
三谷くん、ここで降りちゃうんだ……
最後に声を掛けたい。
ひと言でいいから……
『開くドアにご注意ください』
結局何も言えないまま、三谷くんが降りる駅に着いてしまった。
女の子に続いて三谷くんも立ち上がる。
私ができるのは、見送ることだけ……
「と、そうだ」
「……ぇ?」
座席から離れかけた三谷くんは、くるりと振り返り――

「よかったら、これ使ってください」
私の目の前にハンカチを差し出した。
「で、でも……」
「大丈夫です、洗いたてで一度も使ってませんから」
「ぁ……」
「陸斗ぉーっ! ドア閉まっちゃうわよーっ!!」
「あ、うん! じゃあ」
戸惑う私にハンカチを手渡した後、三谷くんは最後に小さく手を振って電車を降りた。

「三谷……くん……」

受け取ったハンカチでそっと涙を拭いながら、わたしはようやくその名前を口にした。
三谷くんの優しさは、昔から変わっていない。
そして、私のダメさ加減も、まったく……